「絵のない絵本」は大人むけの絵本。
アンデルセンの美しい詩と
いわさきちひろのモノクロの挿絵が
ひっそり静かに広がる世界です。
主人公はとある屋根裏に暮らす貧しい画家。
誰も友達のいない街で淋しく暮らす彼のもとに
夜ごと月が訪れて、自分の見てきたことを
話して聞かせます。
まるで詩のような、三十三夜のお話。
どれも夢物語ではなく、名もない人々の暮らしのひとコマです。
ある時は、インドの川のほとりの少女。
ある時は、パリの街角。
またある時は、アイスランドの人々のこと。
大きな出来事があるというわけではなく
本当に月が、ふと下を眺めたら起こっていた出来事・・
というような場面です。
そして どれも少し悲しげ。
きっとこの時代には
庶民の暮らしは慎ましやかだったのだと思います。
アンデルセンのこの絵本で
人々のその質素な暮らしの中にある
喜びや悲しみにこそ
本当の美しさがある と語っているように思えました。
そして ちひろさんの挿絵は
見事にその世界観を表現しています。
多くの作品は明るい色彩で描かれている
ちひろ作品ですが、それとはまた別の
画家として新たな表現の試みを感じます。
描く事への想いの強さでしょうか?
この絵本の挿絵は ちひろさんの念願だったそう。
その想いが感じるのかな?
この作品のために
アンデルセンの生地オーデンセへまで
旅したちひろさんは以下のような感想を述べています。
なにからなにまで見なければ描けないなんてことはないけれど
じかにこの目で見、ふれることのできる感動が
どんなにわたくしを力強く仕事に立ち向かっていけるようにするかということを
かみしめていました。
(いわさきちひろオーデンセの旅行記より 別冊太陽いわさきちひろ)
時には美しい言葉で綴られた本を読みたい時に
おすすめの1冊です。